「ザバダック」と耳にするだけで、
京都での大学時代を思い出す。
いわゆるヒット曲は全く持たないバンドだったが、
九十年代前半、
左京区東一条界隈のいろんな音楽サークル周辺で、
とにかく流行っていたことを憶えている。
合唱団の先輩に「遠い音楽」を貸してもらって気に入り、
四条烏丸の十字屋で、
当時の新譜だった「桜」を買った。
耽溺した。
はじめは上野洋子の歌声が目当てだったが、
次第に吉良知彦のギターに興味を引かれた。
日比谷野音のライブのVHS、
手元のアップを擦り切れるぐらい再生して
弾きかたを覚えた。
今朝、その吉良さんの訃報に接して、
自分でも意外なほどの衝撃を受けた。
昼休み、職場の窓際で
iPodのプレイリストを久しぶりに聴いた。
五つの橋、アジアの花、光の人、そして遠い音楽。
目の前のぎらぎらした商業ビルが現実感を失い、
二十年前の木陰の湿り気が蘇るように感じられた。
サークルボックスの入り口に座って
覚えたばかりのイントロを弾くと、
隣の同級生がひっそり声を合わせてきた。
それはまさに青春の1ページで、
それなり時は経ったにせよ、
今の自分と確かに地続きであると、
これまでも感じられていた記憶だった。
しかし吉良さんが別の世界へ旅立ったのと同時に、
その思い出もまた、
容易に辿れない別の世界へ遠のいてしまったような気がした。
それが悪いことだとは思わないけれど、
遠ければ遠いだけ、やはり寂しい。
56歳。
ロンドンパンクの人じゃあるまいし、
もっと長生きしてほしかった。
ご冥福をお祈りします。