2018年9月8日土曜日

ゴクロウサマ

金曜、五営業日の締めで夜遅く帰ると、子供はさすがに寝ていた。
新学期の疲れもあって、待ちきれなかったのだろう。

朝、療育のため長男と家を出ると、自転車の後ろの席から

「パパ、オシゴトイッテタ?」
「ああ、行ってた」
「オカエリ」
「ただいま」
「パパ」
「なあに」
「ゴクロウサマ」

すごいな、どこで覚えたの、などと言おうとしたが、
自分でもびっくりするくらい嬉しすぎて、結局何も言えなかった。



2018年8月27日月曜日

新しい力

長男が、いわゆる「普通の子供」ではないと判ってから、
(空回りや遠回りに満ちた)「受容の過程」というやつを経て、
とにもかくにも長男との向き合いを人生の中心に置き、
他のあらゆることに優先させると腹の底から決めて、ここまでやってきた。
だから、自分の楽しみに自分の時間を割くことに、
(たとえば外でビールを飲むことにさえ)罪悪感を持っていた。
しかし最近は、心持ちも変わりつつある。

今年になって、昔のバンド仲間との音楽を再開したが、
ちょっと前なら誘いを受けても、おそらく断ってしまっていただろう。
「やってもいいかな」と思えたのは、
第一には長男が、こちらの想像を遥かに超えて成長してくれているから、
そして第二には、妻が
「それはあなたにとって大切なことだから、やったほうがいい」
と言ってくれたからである。

日曜夕方、家族四人で、
地元・八幡山小学校の父親会主催の花火大会へ行った。
長男が通っている学校でもないし、行く前は少し億劫だったが、
校庭に三百家族以上が集まる盛況、
幼稚園時代の同級生や親御さんも声を掛けてくれて有り難かったし、
手作りのナイヤガラまでやってしまう、実行委員会のお父さん達の気合も痛快だった。

帰宅してから、何の気なしに
「子供はかわいいね、他所の子だってかわいく思う」と呟いたら、
妻が「そうね、今そう思えるのは幸せね」と言った。
ここ数年、家族で進んできた細い道のことが思い出された。
今、道幅は広がり、視界は開け、私達は手を繋いでいる。
長男が花火の楽しみを覚えるように、
自分も新しい力を蓄えようと、強く思った。



2018年1月25日木曜日

ワカッター

月末に税務署への調書提出を控え、作業量が多い。
職場から妻へ電話した。

「ごめん遅くなる。青は?」
「パパとお風呂入るって言ってる」
「直接話してみるよ」

妻が端末を息子に向けると
「パパー!」
「おー青くん、元気?」「ゲンキー」
「ごめん青、パパ遅くなっちゃう。お風呂、先に入ってくれないかな」

間。

「パパトオフロハイルー」
そこへ妻が助け船、
「パパ遅いって。橙ちゃんとママと、先にお風呂入ろ?」

間。

「ワカッター」
「わかったの(驚)?」
「ダイシャンママアオ、オフロハイル。ワカッタ」
「すごいねえ。ごめんね青」
「イイヨー」

切った後、廊下で暫くぼうっとした。
本当のところ、わかってくれると期待していなかったからだ。
期待していなかった自分を恥じた。

帰宅すると、明かりを落としたリビングには誰もいない。
寝室へ行ったら、ベッドに座った青がさめざめと顔を覆っているので
「どうしたの?」と妻に聞くと
「パパ帰るまで寝ないって、泣いちゃって」
胸がぐっと締め付けられ
「ごめんな。パパ帰って来たよ」
すると手を降ろし、はあっと息をつくと、横になって
「オカエリイ」
「ただいま」

子供に与えてもらう幸せを全身に浴びた。
でもそれに耽るのも違う、親なのだから。
「パパアシタ、オムカエ?」
「うん、明日お迎え、遅くないよ。帰ったら、パパとお風呂に入ろうね」