去年の今頃の話。
育児休業中で、自閉症の長男と毎日散歩に出ていた。
当時の長男は住宅の門扉に拘りがあり、
一軒ごとに取っ手を回さねば気が済まず、
回して開こうものなら
中に立ち入らねば気が済まなかった。
止めると暴れる。
何事かと家の人が出て来る。
それでも謝って事情を話せば皆さん優しくしてくれ、
いいよ門扉くらいと言ってくださり、
おかげで近所を歩くかぎりは次第にストレスも減っていた。
そんなある日、道で
コリーを連れた老年の男性と出くわした。
門扉をいじる長男を見て、老人は吐き捨てるように
「親の育て方が悪いからこうなるんだ」
と言った。
全身から冷や汗が出た。
何も言えず、
子供を引きずるようにその場から離れながら
「そうだこれが世間だ」
という言葉だけ、頭の中に充満した。
今朝、上北沢の駅前で
その老人を見かけた。
思っていたより随分耄碌した爺で、
コリーはまともに歩けないくらい太っていた。
この一年で変わったのだろうか?
いや、たぶん彼らは変わっていない。
変わったのは俺のほうだ。
犬の頭を撫でながら
「かわいいワンちゃんですね」と言ってみた。
爺は顔をくしゃくしゃにして
「ありがとうございます」と言った。