2019年11月9日土曜日

ちがうみち

 朝、送迎バスの停留所へ向かう道、
いつもは真っ直ぐ進む四つ角で、先を歩く長男の青が突然左へ折れた。
万事ルーティンにこだわる自閉症児なのに、
どうしたことかと驚いて追いかけたが、本人は別段惑う様子も無く、
少し遠回りしてみながら目的地へ向かう、それだけのことのようだった。

バス停の目前の信号を、長男が渡ったところで赤になった。
すると対岸の私に振り向いて、誇らしげに

「アオくん、チガウミチイッタ!」

頭の中をびゅうっと風が吹き抜けたように感じ、
彼が三歳だった頃、育休中の記憶が蘇った。
毎日の散歩、決まった順路を、一軒ごとに門扉をいじりながら進み、
少しでも違えば泣き叫んで道に転がっていた子だ。
同じ子が六年後、
自分からすすんでルーティンを崩し、それを楽しんでいる。

「すごいなあ」と小さく口にしたあと、
行き交う車の音に負けないように

「すごいなあ青、すごいぞ!」

語尾が少し震えた。
満面の笑顔を見ながら、仕事に向かうのが惜しかった。