2015年4月1日水曜日

世間

去年の今頃の話。

育児休業中で、自閉症の長男と毎日散歩に出ていた。
当時の長男は住宅の門扉に拘りがあり、
一軒ごとに取っ手を回さねば気が済まず、
回して開こうものなら
中に立ち入らねば気が済まなかった。
止めると暴れる。
何事かと家の人が出て来る。

それでも謝って事情を話せば皆さん優しくしてくれ、
いいよ門扉くらいと言ってくださり、
おかげで近所を歩くかぎりは次第にストレスも減っていた。

そんなある日、道で
コリーを連れた老年の男性と出くわした。
門扉をいじる長男を見て、老人は吐き捨てるように

「親の育て方が悪いからこうなるんだ」

と言った。
全身から冷や汗が出た。
何も言えず、
子供を引きずるようにその場から離れながら
「そうだこれが世間だ」
という言葉だけ、頭の中に充満した。

今朝、上北沢の駅前で
その老人を見かけた。
思っていたより随分耄碌した爺で、
コリーはまともに歩けないくらい太っていた。

この一年で変わったのだろうか?
いや、たぶん彼らは変わっていない。
変わったのは俺のほうだ。

犬の頭を撫でながら
「かわいいワンちゃんですね」と言ってみた。
爺は顔をくしゃくしゃにして
「ありがとうございます」と言った。