2009年9月9日水曜日

五限目

高校生だったころの夢を時々見るが
いつも五限目の授業だ

秋で
僕は痩せて猫背で
机の横についている、鞄を掛けるための細いフックを
左手の指ではじいている
表地が紺で、裏地がベージュの
マウンテンパーカを着ている

併設の中学校の音楽の授業で
ベートーベンの九番の
難しいところを切れ切れに歌うのが
校庭をわたって聞こえてくる

そうして僕は
夏の水泳の時間を思い出している
着替えて泳ぐのをけだるい連中が
プールサイドのテントの下で
見学と称してだらりとして
時折つじつまを合わせるみたいに
七月の文化祭の打ち合わせをする

そのうちひとりが甲高い声をあげて
日なたに走り出すと
服のままプールに飛び込んだ
浮き上がった彼を見て、みんなで笑った

水から上がろうとするところに
体育の教師が待っていて
妙に静かな声で
「バカが」と言った

笑い声がやんだ

なんで五限目なんだろう
あの眠くてつまらない五限目
もっと甘くて胸苦しくて
夢に見るといかにも心地よい瞬間が
たくさんあったはずだと
目が覚めるたびに思う

思うが、夢に見るのは
きょうも五限目だ
五限目の僕は、何もしていない