2008年11月10日月曜日

八幡山通過

仕事帰りの混雑した電車の中、
背の高い、まだスーツのちょっと似合っていない青年が
自分のすぐ前に立っていて、
それで彼の携帯メールの画面がなんとなく目に入ったのだが、
京王線の明大前を出たとき、彼は

「明大前発車」

と、送信した。


するとすぐに返事が来て、
そこには

「八幡山通過」

と書いてあった。

京王線の駅は新宿から八王子の方向に
明大前(急行停車)、下高井戸、
桜上水(急行停車・僕の最寄り駅)、
上北沢、八幡山と続いていく。

つまりこの青年は下りの列車、
そして彼の恋人は上りの列車に乗って、
お互いに近づいて来ているところというわけだ。

さて、「八幡山通過」に対する彼の返信は

「下高井戸通過」

で、やがて桜上水に着くと
青年は電車を降りた。

エスカレーターを上がったところで
彼は周りを見まわし、上りの発着掲示板を見上げ、
「おかしいな、もう着いているころだけど」という具合に
ちょっと首をかしげて、

それから改札の外に目をやると、
顔がぱあっとほころんだ。

恋人はメガネをかけたちいさなひとで、
改札を出た向かいの本屋の前で待っていた。


で、勝手にメールの画面を見た上に
彼女を見つけるところを離れたところからわざわざ眺めて
悪かったなあと重々反省しながらも
(実はあんまり反省していない)
思ったことは、

「携帯メールって、良いな」

ということだ。

「明大前発車」
「八幡山通過」
「下高井戸通過」

こういうやりとりって、
携帯メールが無かったついこのあいだまでは
ぜったいに存在しなかったものだ。


電話より間接的で、手紙より迅速。

なかなかキュートじゃないか。
感心した。